えっ!? 口はお尻よりもきたないの?
人間の体は1本の管のようなものだという考え方があります。その管は口と肛門を介して外界とつながっています。「入り口である口は、出口であるお尻より汚い」といったら何を言ってるんだと思われるかもしれませんが、事実です。
人の体は皮膚という防護壁で守られています。その次の防護壁は口・鼻・気管支・胃・腸などにある粘膜です。粘膜は、粘液や非常に細かい毛で覆われていて、体をさまざまな細菌の侵入から防いでいます。
口も内部は粘膜におおわれていますが、むき出しのまま多くの細菌と接触しています。ここが、体の中に収められている他の臓器と大きく違うところです。口から体の中に入った細菌は胃酸によってその多くが死滅し、さらに腸管には独自の乳酸菌が働いて体に害になるようなものはやっつけてしまうので、お尻から便となって出てくる細菌の種類はごくわずかです。口の中の粘膜にはそれほどの働きがないので、いろいろな細菌が繁殖しています。
口の中にいる細菌は「口腔常在菌」「日和見菌」「歯周病菌」「う蝕菌」などに分けられます。口腔常在菌は、常に口の中にいる細菌のことです。日和見菌は免疫がしっかりついている人の口の中にはいません。その力がまだしっかり備わっていない子どもや、免疫力の落ちているお年寄りや病人の口の中にいます。歯や入れ歯の表面にできるバイオフィルムの中にいる細菌が、抗生物質に抵抗力のある遺伝子をもつ細菌との間で、組換えを起こしています。これは体に害を及ぼす細菌で、院内感染を起こします。
歯周病菌は同じく体に害を及ぼす細菌で全身にさまざまな影響をもたらし、心臓病や、流産などにも関係するといわれています。う蝕菌は、虫歯の原因菌のことで、歯の表面に多糖体のバイオフィルムを作り、その内部で増殖して乳酸を作りだしその乳酸を歯の表面に貯め、歯のエナメル質を溶かしてしまう細菌です。
口の中にいる細菌の数は、唾液1ミリリットルあたり1億個といわれています。おわかりでしょう。だから「口はお尻よりも汚い」のです。ついでに、バイオフィルムにはどのくらい細菌がいるかというと、1グラムあたり1000億個もいます。
口の中の細菌数は常にほぼ一定で、イス取りゲームのように、きまった数のイスを取り合っています。問題はよい細菌が多くイスを取るか、悪い細菌が多く取るかによって健康が左右されるということです。当然ですが、細菌の中にも体にとってよい細菌と悪い細菌があるのです。
少しは、口が健康に及ぼす影響力に気づいていただけましたか。どれほど口が無防備な状態にあるか、おわかりいただけたでしょう。
こんな状態の口の中に虫歯ができたら、そこはむき出しの傷口と同じです。さまざまな悪い細菌がその傷口から入ってきます。たかが虫歯と侮ってはいられません。
もう虫歯にならない! 花田信弘 著 新潮社刊