ストレスが引き起こす歯のトラブル
最近、痛みを訴えて来院する方の原因のひとつに、歯に強い圧力がかかった結果、起きる症状があげられます。これは、無理して硬い物を食べすぎたわけではなく、ストレスによるあごの筋肉の過緊張によるものです。
心身にストレスがかかって緊張すると、顔つきが変わります。目つきも変わりますが、口元も引き締まります。これは筋肉が緊張するからです。この筋肉の緊張で、歯にも強い圧力がかかります。
歯は大きな圧力に耐えられる組織ですが、通常は上下の歯は接触しないように想定されて作られていて、持続カには弱いようです。驚くなかれ、1日24時間中、上下の歯が接触している時間は、咀しゃくする時を含めて、わずか10分程度です。ほとんどの時間は接触していないのです。それなのに、ストレスにさらされて何十分も噛み締めていれば、その力を受け止める組織に無理がかかリます。
それが習慣となると、いろいろな症状が起こります。冷たい水にひどくしみる知覚過敏になったり、歯にひびが入ったり、割れたりすることがあります。歯と歯を支える骨の間にある歯根膜に無理がかると、歯周病が悪化して歯周ポケットが深くなり、歯が揺れてきます。この力が、骨を伝わってあご関節にかかると顎関節症となり、口が開かなくなったり、あごの関節周囲に痛みを感じたり、クリックといってあごの開閉時に音がしたりします。また、くいしばる筋肉に痛みが生じることもあります。
上下の歯を強く噛み・合わせてずらすと、音が鳴ります。これが「歯ぎしり」です。一方、歯を噛みしめたまま、ずらさない場合もあります。ずらさないので音はしませんが、これを「クレンチング(無意識のくいしばり)」といいます。「クレンチング症候群」。聞き慣れない言葉かと思いますが、本人が気付かないでいると、歯を失ってしまう原因の一つになります。
以上の9項目中、3項目以上該当すれば、クレンチング症候群の可能性があります。無意識に行っていることを自覚するのは難しいかもしれませんが、その方法として緊張して何かに夢中になっている時、クレンチングしているかどうか、ふっと手を休めて確かめて下さい。もしも自覚され、その状況が把握できたら、やりそうな時に注意をしてみましょう。
歯のトラブル知らずになる本 中村輝夫著 山海堂刊