生え始めで決まる
歯の運命は生え始めの時期に決定されるといっても過言ではありません。生え始めの時期に唾液中のミュータンス菌が多ければその子どもはむし歯になりやすく、よい細菌が優勢であればむし歯になりにくいからです。
歯が生え始めたときに、真っ先に歯に付着するのは「ムチン」(酸性唾液糖タンパク)というものです。そして、このムチンによって覆われた歯の表面の膜は「ペリクル」と呼ばれています。
このペリクルに、むし歯を引き起こさない善玉の常在菌の代表・サングイス菌やミティス菌などが付着すれば、健全な歯垢が形成され、歯の表面は守られます。
こうなると唾液の緩衝能力が有効に働き、歯の表面の持続的なpHの低下が避けられるので、ミユータンス菌が真っ先に歯に定着した場合に比べるとむし歯になりにくいし、ミユータンス菌が入ってきても排除されます。ですから、甘いお菓子を食べても虫歯になりにくいのです。ところが、歯の生え始めに唾液の中にミユータンス菌がたくさんいる子どもは、生え始めの歯のペリクルにこの菌が定着してしまい、よい細菌が定着するのを妨げてしまいます。ミユータンス菌は、歯の表面や、歯と歯の間などにのさばって、いずれはむし歯になってしまいます。
たとえ、ミユータンス菌の感染を完全に防ぐのは困難だとしても、感染の時期を遅らせるだけでも有効なのです。せめて、よい常在菌が付着して健全な歯垢が形成されるまで、感染を遅らせる努力をしてほしいと思います。
甘いお菓子は子どもにはとても魅力的です。お母さんとしては、むし歯になるのが心配で食べさせたくないけど、「食べちゃいけません」といいきれる人は少ないでしょう。どうしても、「しようがないわね、少しだけよ」と妥協してしまいます。
でも、ペリクルによい菌を植え付けることができたあとなら、甘いお菓子を食べてもむし歯になりにくいのですから、それまでの辛抱です。完全に禁止するのは無理でしょうが、せめて砂糖を使う量を減らし、おやつの時間を決め、だらだらとお菓子を食べたりすることだけはやめましょう。おやつには、砂糖が少なく、ロの中にとどまる時間が少ないものがおすすめです。チョコレートやキャラメルよりも、果物や野菜を使ったデザート。ジュースよりお茶や牛乳がよいでしょう。おやつを食べた後は、すぐにロをゆすいだり歯磨きをするようにしましょう。
少なくとも、永久歯が生え揃い、免疫機能が完成する12歳まではお菓子をはじめとする砂糖の量をコントロールする必要があるのです。
乳児期には、親子で楽しみながら歯磨きをし、正しいブラッシングを習慣づけることが大切です。最後は必ずお母さんが仕上げ磨きをしてあげましょう。
もう虫歯にならない! 花田信弘著 新潮社刊