顎関節症の原因は従来から多くの議論がなされていますが、現在では“かみ合わせの異常”が多くの原因のなかのひとつとして考えられています。それではかみ合わせの異常はどのように顎関節症の発症に関連するのでしょうか。
わかりやすい例として、かみ合わせの異常が偏咀嚼(片方の顎でかむこと)の原因となることがあげられます。例えば、片側に小さな虫歯があり、そこでかむと痛かったら反対側でかみます。同様に、歯が抜けてなくなったままであるとか、入れ歯が合わないなどのいろいろな歯科的な問題により反対側でかむことになります。そして、片側でかむことが長期になると、かみ合わせ、筋肉の働き、あごの動き方などが次第にいつもかんでいる側に馴染んでしまい、はじめの原因がなくなっても片方でかむようになってしまうのです。偏咀嚼は癖のようなものであると言いましと言いましたが、その元は歯の問題、つまりかみ合わせの異常であることが多いのです。
したがって偏咀嚼を治すには、まず認知行動療法を行いますが、最初に偏咀嚼をつくりだした歯の問題が続いている場合には、それを解決しなければなりません。その解決法はほとんどの場合、従来考えられていたような大がかりなものではなく、ごく局所的で簡単な方法ですみます。最初に偏咀嚼の原因を簡単な方法で仮に治療し、そこでかんでも支障がない程度にします。例えば虫歯を仮に詰めて痛みをとる、入れ歯を調整してかめるようにする、じゃまになっている歯を一部削るなどの治療です。そして、治療が進み顎関節症の症状が治まったところで最終的な歯の治療をします。症例によっては大がかりな治療が必要な場合もあります。
このように、かみ合わせの異常の役割が解き明かされることにより、治療の時期が変わりました。初期治療では多くの因子の中から症状と関わっているものを見つけ、もしかみ合わせの異常が関わっているとすれば、どのように関わっているかをはっきりさせ、それを取り除くことにより症状改善が見込める場合には、できるだけ簡単なかみ合わせの治療を行います。そして、最後に行われるかみ合わせの治療は顎関節症の症状を改善するための治療ではなく、純粋にかみ合わせの異常の改善のために行われます。以上が現在の顎関節症におけるかみ合わせの異常のとらえ方と対応です。
あごが痛い、口が開かない 顎関節症 NHK出版刊