歯とからだの話
2018/07/12

食べる時には、左右の歯を均等に使いましょう

抜けた歯をそのままにしておくと・・・

成人の歯は親知らずを含むと全部で三十二本あります。そのせいか「一本や二本抜けてしまっても、どうってことはない」と思ってしまう人がいるようです。しかし、これは大きな間違いです。抜けた歯を放っておくと、その前後の歯が内側に向かって倒れてきます。
そうすると、歯と歯のあいだに隙間が開き、同時に、失われた歯と噛み合うべき相手側の歯が突出してしまいます。そうなってしまったら、バランスよく全部の歯を使ってものを噛むことができなくなります。

顎の動きとその影響

食べたり飲み込んだりするときの下の顎は、いろいろな方向に動いています。この複雑な動きのことを「下顎運動」といいます。この動きが、噛み合わせの乱れによって狂ってしまうと、使いやすい片側の歯でしか、ものを噛まなくなってしまうのです。

この状態が長く続くと、顔が右と左で違ってきてしまいます。ものを噛まないでいる側の顔は、筋肉が使われないため、だんだんやせこけていってしまうのです。そして、やがては首や肩の筋肉、そして全身に影響が出てきます。ときには口が片側にずれて、まっすぐに開かなくなり、顎の関節がゴリゴリと音がするようになります。

「たかが食べ物の噛み方くらいで、そんなことがあるわけがない」と思うかもしれませんが、左右の顎のバランスが崩れると、それにつながっている首の筋肉のバランスも当然崩れます。首の筋肉のバランスが崩れると、重たい頭を支えきれずに首は傾きます。そのゆがみが肩、腰へと伝わり、姿勢が崩れてしまうのです。

実際に、歯が抜けたのを放っておいただけで、背骨が傾斜し、無意識な状態のときの姿勢のバランスがくるってしまったという場合があります。アメリカで片側の歯のない人たちを立たせて目をつぶらせるという実験をしたところ、被験者のほとんど全員の体が傾いてしまったそうです。

一本の歯を失うことは、口腔内だけでなく、体全体のバランスを崩す結果を招いているのです。歯を抜いたら、義歯を入れるなり、ブリッジを入れるなりして、元どおりの状態に戻すまでが治療だと思ってください。また、歯を抜いていなくても、片側ばかりでものを噛んでいたら、歯が抜けてしまっている状態のときとまったく同じことが起こります。
わずかの努力で、歯ならびを良くすることができます。口の中全体の歯を使い、ものを噛むように心掛けてみましょう。

引用元:
・きれいな歯のつくり方 田北敏行著 ごま書房刊