「無くて七癖」といわれるように人にはいろいろな癖があります。
物を噛むとき、左右の歯でバランスよく噛むことが歯の健康を保つ上で大切ですが、知らず知らずのうちに右側を主体に噛んでいる人とか、左側で主に噛んでいる人とかさまざまです。
なぜそのような現象が起こるのか考えてみましょう。
顔の外形と歯の外形
顔の骨格の上には多くの顔面筋が存在しています。年をとると、口もとにもしわが増えて老人顔になるのも、口のまわりの口輪筋という、口もとを支えている表情筋の作用が衰えてくるからです。
顔は卵形、細面形、丸形、長方形、四角形、三角形など、人により様々な輪郭があります。かつては四角形のえらのはっている人が多く、物を噛む力が強かった、または強くならざるをえなかった人が多く見受けられました。最近は、あまり噛まなくてもいい軟らかい食物のために、えらの発達した四角顔の人が少なくなり、細面のうりざね形が多くみられるようになりました。
歯は奥歯から前歯にかけて、顔の外形にそった歯列(歯並び)がみられます。人の歯並びを観察しますと、右利きの人は左側で噛む人が多いようです。左利きの人は反対に、右側で噛む人が多いようです。これは、大脳の働きとも関係しています。右脳の人は左利きで、左脳の人は右利きが多いといわれています。
ところが、歯が抜けたりしてブリッジや義歯を入れたりすると、大脳からの指令は噛みやすいほうに転換するサインが出てきます。今まで左側で噛んでいた人が、入れ歯よりも自分の歯のほうが噛みやすいとなると、反対側の右側で噛むようになるのです。これは、噛む能力を大脳が選別して、その指令を送るためです。
口もとを美しく保つために
高齢の方の顔をよく見てみますと、片方の口元が下がり気味の方がおられます。口腔の機能から考えますと、左右平均的に噛むことでバランスが維持され、口腔表情筋も偏らず均等になります。物を噛むときには、意識して平均的に全体で噛むように心がけたいものです。バランスがよくないと、歯の摩耗も偏り、不均一による顎関節症の原因にもなります。
噛むことの大切さは今さらいうまでもありませんが、消化器系の負担を少なくし、肥満を防止し、脳への血流もよくします。
「軟らかいものでも30回噛め」といわれます。左右平均的によく噛むことを心がけることで、歯の周囲の歯茎、歯根膜も鍛えることになります。自分の噛み癖について、注意してみましょう。
お口の健康ア・ラ・カルト 鴨井久一著 医歯薬出版㈱刊